私たちは日々、食べ物を食べて生きています。肉や魚、野菜や海藻、果物や穀物など、多種多様な食材を取り入れて生活しています。そして、こうした食材に含まれる栄養素をうまく利用するために、体の中の消化管で食材を分解し、腸において消化吸収されています。吸収された栄養素のうち、あるものはエネルギーに変えられ、あるものは髪や爪の材料となります。こうした一連の働きは体の中で作られる酵素が大きく関係しています。
体の筋肉や皮膚、髪の毛や爪、血液の材料となる「タンパク質」。
体を動かすエネルギーとなる「脂質」。
脳にとっての大切な栄養素で、体に必要なエネルギーの60%を占める「炭水化物」。
体の機能の維持や調整に不可欠な役割を果たす「ビタミン」「ミネラル」。
こうした様々な栄養素を食事から体に取り入れ、そして体の中で新たに組み立て直しています。
それでは、こうした生命活動に欠かせない「酵素」の働きを、「消化酵素」と「代謝酵素」の観点からみていきましょう。
食物の消化吸収に関わる「消化酵素」
多彩な食材を毎日口にすることで、私たちの健康は維持されています。一方、単純に食材を口にするだけでは体の中に適切に吸収されることはありません。栄養素の固まりである食べ物を分解して、体に吸収されやすい形にまで細かくする作業が必要です。この作業を触媒しているのが「消化酵素」です。ただし、「消化酵素」とひと言でいっても、すべての栄養素を分解できるわけではありません。栄養素の種類、そして消化器官の種類によって「消化酵素」もさまざまな種類が存在しています。
「消化酵素」は、大きな食物を、腸管から吸収できるような小さな分子に分解する手助けをしています。分解される栄養素の種類によって、大きく「炭水化物分解酵素」「タンパク質分解酵素」「脂肪分解酵素」の3種類に分けられます。それでは、どの消化管にどんな「消化酵素」が含まれているかをみていきましょう。
唾液:
口の中で食べ物を噛むと分泌される消化液です。1日に1〜1.5リットル分泌されています。
<唾液に含まれる消化酵素>
炭水化物分解酵素:アミラーゼ(ブリアチンともいい、デンプンを分解してブドウ糖などの単糖にします。)
胃液:
胃液は強酸性で、食物が胃に到達すると分泌されます。1日に2リットル程度分泌されています。
<胃液に含まれる消化酵素>
タンパク質分解酵素:ペプシン(タンパク質を分解して小さなペプチドにします。)
膵液:
膵液は弱アルカリ性で、十二指腸に分泌される消化液です。1日に1〜2リットル分泌されています。
<膵液に含まれる消化酵素>
炭水化物分解酵素:膵アミラーゼ(デンプンを分解してブドウ糖にします)
タンパク質分解酵素:トリプシン(タンパク質やペプチドを分解して、さらに小さなポリペプチドやアミノ酸に分解します)
タンパク質分解酵素:キモトリプシン(タンパク質やペプチドを分解して、さらに小さなポリペプチドやアミノ酸に分解します)
脂肪分解酵素:膵リパーゼ(脂肪を分解して脂肪酸とグリセリンに変換します)
腸液:
腸液は弱アルカリ性で、消化の最終段階を担っている消化液です。1日に2〜3リットル分泌されています。
<腸液に含まれる消化酵素>
炭水化物分解酵素:スクラーゼ(ショ糖を分解してブドウ糖と果糖にします)
炭水化物分解酵素:マルターゼ(麦芽糖を分解してブドウ糖にします)
タンパク質分解酵素:アミノペプチダーゼ(ポリペプチドを分解してアミノ酸にします)
このように、体の中の様々な消化器官で、栄養素ごとに適した消化酵素が働いています。日々口にしている食物は、こうして体内に吸収できる大きさにまで分解された後に、はじめて体の中に入ってエネルギーとして利用されることができるのです。
生命活動に欠かせない代謝酵素
それでは、消化酵素によって分解され、腸から吸収された栄養素はいったいどこに行くのでしょうか?炭水化物が分解されたブドウ糖、タンパク質が分解されたアミノ酸は、腸にある毛細血管という細い血管を通じて肝臓へ運ばれ、その後適切な形で全身の細胞に運ばれます。また脂肪はいったんグリセリンや脂肪酸に分解され、リンパ管から血管に入り込み全身に送られます。
こうして吸収された栄養素は体の中で様々な形に変換され、大切な役割を果たすようになります。この過程で触媒の役目をしているのが「代謝酵素」です。
- エネルギー生産に関わる代謝酵素
代謝の大切な役割の一つは、エネルギーの生産です。体が動くためにはエネルギーが必要です。こうしたエネルギーのやり取りに使われるのが「ATP」。私たちは食事から摂取した成分を使って、体の酵素を使ってATPを作り出しています。「解糖系」をよばれるシステムでは、ブドウ糖から得られるグルコースをヘキソナーゼなどの酵素が分解してATPを作ります。また、TCAサイクルでは、ミトコンドリアという器官で解糖系によって作られた成分と酸素を酵素の力で燃焼させ、たくさんのATPが生産されます。
- タンパク質の合成に関わる代謝酵素
体の筋肉や骨、皮膚や髪の毛や爪、免疫に関わる物質は、全てタンパク質でできています。髪はケラチンという硬質のタンパク質から構成されています。爪は皮膚の表皮が硬化してできた部分で、髪と同じくタンパク質でできています。こうしたタンパク質の合成に関わるのも酵素です。肌の美容に欠かせないコラーゲンは、ヒドロキシプロリンとヒドロキシリジンという特殊なアミノ酸が含まれるタンパク質です。プロリンとリジンがつながった後で、酵素の働きで特殊なアミノ酸に交感されます。
- ホルモン合成に関わる代謝酵素
ホルモンは、血糖値を下げるインスリンや、成長を促す成長ホルモン、性周期をコントロールする女性ホルモンや男性ホルモン、ストレスに対応するアドレナリンなど、体の状態を調整するために欠かせません。こうした様々なホルモンを作り出す時にも、適材適所でホルモン合成の代謝に関わる酵素が働いています。
- 解毒や抗酸化に関わる代謝酵素
アルコール胃や腸から体に吸収され肝臓に運ばれます。そこで活躍するのが解毒酵素です。まずアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドに変換され、次に2型アルデヒド脱水素酵素とよばれる酵素で酢酸に変換されて無毒化されています。また、体内の活性酸素を除去するのはSOD(スーパオキシドジスムターゼ)やグルタチオンペルオキシダーゼとよばれる抗酸化酵素です。他にも様々な毒素の除去に酵素が働いています。
- 神経に関わる代謝酵素
脳の中の神経細胞は、神経と神経をつなぐシナプスを介して情報を送ったり受け取ったりして、脳として「考える」「感じる」「動かす」などの働きを生み出しています。こうしたシナプスがきちんと働くためにも、特殊な酵素が働き合って脳の機能を正しく保っています。また、体のバランス維持には交感神経と副交感神経のバランス維持が大切で、この神経間の情報伝達にも酵素が欠かせません。
ここでご紹介した事例は、体の中の酵素反応のほんの一例です。37兆個ある体の細胞の中では、無数の酵素がそれぞれに与えられた役割を日々正確に果たしてくれています。食べたものをきちんと消化酵素の力で分解し、吸収した栄養素を使って体の中で代謝酵素の力で生命活動を維持することが、日々の健康維持につながります。
ただし、こうした人間の体で働く消化酵素や代謝酵素は、外から直接補うことはできません。体の酵素力を上げるためには、バランスよく酵素の材料となる食材を口にすること、そして吸収の土台である腸内環境を整えることが大切です。さらに、腸内細菌を元気にして、腸内細菌に酵素を作ってもらうことが、消化〜吸収〜代謝の流れを円滑にするために欠かせないのです。


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