エクオールは、女性の健康維持においてとても重要な役割を果たす成分です。その産生が短鎖脂肪酸(SCFA)の産生と深く関わっていることが、最新の研究によって明らかにされています。今回は、エクオールの産生がどのようにSCFAと関連しているのか、そしてエクオールがエストロゲンの減少を補うメカニズムについてご紹介します。
エクオールって一体何なの?
「エクオール」は、大豆イソフラボンの一種である「ダイゼイン」が腸内細菌によって代謝されて生成される化合物です。このエクオールの化学構造が、女性ホルモンの「エストロゲン」と似ていることから、エクオールが女性ホルモンに似た働きをするとして注目されています。
女性ホルモンのエストロゲンは女性の骨密度の維持、肌の健康、心血管系の保護などに重要な役割を果たしています。しかし、更年期を迎えるとエストロゲンの分泌が減少し、これらの健康効果が失われることがあります。
エクオールはエストロゲン様作用(エストロゲンに似た作用)を持ち、抗酸化作用も期待されており、特に女性の健康に対する多くの有益な効果が報告されています。例えば、乳がん、大腸がん、心血管疾患、骨粗鬆症などのリスク低減に関連しています。
しかし、エクオールを生成する能力は個人差があります。これはエクオールを作る腸内細菌、いわゆる「エクオール産生菌」が腸内に存在するかどうかで左右されます。西洋諸国では20-30%、アジア諸国では40-60%、日本では約50%の人々がエクオール産生者とされています。
エクオールとPMSや更年期障害の関係
日本の病院に勤務する女性看護師を対象に行われた研究では、エクオール産生者が非産生者に比べて、PMSの症状が軽減される傾向が見られました。また別の研究では、更年期におけるエクオールの効果も注目されています。スペインの研究チームによる研究で、閉経後の女性を対象に、エクオール産生能が更年期症状に与える影響を調査しました。その結果、エクオール産生者はホットフラッシュや血管運動症状の軽減が見られ、骨代謝にも有益な影響が確認されました。この研究では、エクオール産生者の腸内細菌叢が、非産生者に比べて多様性が高く、特定の細菌群(SlackiaやCollinsella)が豊富であることがわかりました。
さらに、閉経後の女性を対象にエクオール産生能とSCFAの関係を調査した研究では、エクオール産生者は非産生者に比べて、腸内での短鎖脂肪酸の産生量が多いことが確認されました。特に、酪酸産生菌が豊富であり、これがエクオールの生成を助けていると考えられます。また、腸内細菌の多様性も高いことが確認されています。
つまり、短鎖脂肪酸、特に酪酸産生菌を増やすような食物繊維、大豆、海藻などの食事を意識することで、エクオール産生を助ける効果があることが予測されます。
なぜエクオールが女性ホルモンのような働きをするの?
エクオールは、エストロゲン様作用を持つことで知られています。これは、エクオールがエストロゲン受容体(ER)に高い親和性を持つためです。これにより、エクオールは体内でエストロゲンのような働きをし、エストロゲンの減少による症状を緩和することができます。ただし、完全にエストロゲンと同じ親和性を持つわけではなく、あくまでも20-30%と見積もられています。
エクオールは、大豆イソフラボンのダイゼイン→ゲニステイン→エクオールの順番に代謝されて産生されます。エストロゲンに似た作用をするためには、上述したようにエストロゲン受容体に結合する必要がありますが、その結合能は以下の順番になります。
エクオールが最も強い > ゲニステインは中程度 > ダイゼインは弱い
そのため、エクオールよりは弱いものの、他の大豆イソフラボンもエストロゲン受容体に若干結合することは可能です。もしエクオール産生菌がいない人でも、弱いながらエストロゲン様作用は期待されるため、全ての人が食生活に気をつける価値があります。
エクオール産生菌がいないとエクオールは作られないの?
2020年に発表された研究で、ビフィズス菌の一種であるBifidobacterium longum BB536とBifidobacterium breve ATCC 15700の菌株が、食物繊維のイヌリンと大豆ミルクを添加することでエクオールを産生することが報告されています。これは腸内環境で再現された研究ではありませんが、ビフィズス菌は腸内にも数多く存在するため、腸内細菌検査などで「エクオール産生菌がいない」という結果が出た場合にも、実は腸内でビフィズス菌のような他の菌によってエクオールは産生されている可能性があります。
エクオールは、女性の健康においてとても重要な成分です。そして、その産生は腸内細菌と短鎖脂肪酸(特に酪酸)の産生によって促されることがわかりました。大豆の上手な摂取を心がけつつ、短鎖脂肪酸の原料になる食物繊維にも目を向けて、ぜひ健康的な生活を目指してみてください。
(参考文献)
Heliyon 6, e05298 (2020)
Nutrients 11, 433 (2019)
BMC Microbiology 17, 93 (2017)
化学と生物 51, 74-77 (2013)
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