自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションや他人との関係性の困難さ、反復的で定型的な行動パターンを特徴とする神経発達障害です。例えば、以下のような特徴を示すことがあります。
- 社会的コミュニケーションの困難さ
・表情やジェスチャーを用いた非言語的コミュニケーションの難しさ
・友人関係の構築や維持が困難、他者の感情や意図の理解が難しい
- 社会的相互作用の困難さ
・会話の開始や維持が困難、一方的な話し方や興味の範囲が限定的な傾向
・他者との共同活動に対する興味が乏しい
- 反復的・定型的な行動
・同じ行動や言動を繰り返す、ルーチンや儀式への強いこだわり
・興味の対象がかなり限定的で、それに対して過度の関心がある
・音や光への過剰反応、触感に対する鈍感さなど

ASDは、こうした特徴が個々人によって多様で、症状の重さや影響の程度も様々です。日本の厚生労働省の調査では、およそ100人に1人がASDであるといわれています。他にも、幼児の約3%、小学校高学年の約5%がASDという報告もあり、かなり身近な症状であるといえます。
ASDの病因については、遺伝子の変異が関連していることが知られていますが、近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)の影響が注目されています。
過去の研究では、ASDの人と、通常どおり発達した(TD)人の腸内細菌叢が異なることが報告されています。今回ご紹介する研究では、自閉スペクトラム障害(ASD)および通常発達の人(TD)の人から腸内細菌を取り出し(糞便を採取し)、それを無菌マウスに移植して、行動や脳内の遺伝子がどのように変化しているかを調査しました。
研究方法:
研究チームは、ASDおよびTDの人から糞便サンプルを採取し、それを無菌マウスに移植して、ASDの人とTDの人の腸内細菌叢を持つ「ヒト腸内細菌叢」マウスを作成しました。

このマウスを使って行動テストを行い、さらに脳内の遺伝子発現や作られている成分の違い(代謝物の違い)を解析しました。
この研究での発見
- 行動変化
ASDドナーの腸内細菌を移植されたマウスは、自閉スペクトラム障害に特徴的な反復行動が増加し、移動量が減少し、コミュニケーションが減少しました。
- 脳内遺伝子の変化
ASDドナーの腸内細菌を移植されたマウスは、脳内で560の遺伝子で異常が観察されました。(FMR1、Neurexin-3、Ank2などのASD関連遺伝子で顕著なスプライシングの変化)
- 代謝物の違い
ASDドナーの腸内細菌を移植されたマウスの腸内の内容物および血清の代謝物を解析した結果、27の代謝物が有意に異なっていました。
特に、5-アミノ吉草酸(5AV)およびタウリンの濃度が低いことが確認されました。これらの代謝物は、神経機能に影響を与えてASDの行動に関連している可能性があります。
- 代謝物の投与と行動改善
ASDモデルマウスに、減少していた5AVまたはタウリンを投与したところ、反復的な行動が減少し、社会的相互作用が改善されました。
また、5AVは神経の興奮性を低下させることが示されました。
今回の研究によって、腸内細菌叢が自閉スペクトラム障害の行動、および脳内遺伝子の変化にとても大切な影響をあたえることが示されています。これによって、腸内環境の調整がASDの治療に有望なアプローチであることが示されています。
まだマウスでの研究であり、人間で同様の代謝物が変化しているかどうかはわかりませんが、将来的には腸内細菌叢やその代謝物をターゲットにした新しい治療法が開発されることが期待されます。
(参考文献)
Human Gut Microbiota from Autism Spectrum Disorder Promote Behavioral Symptoms in Mice
Cell 177, 1600-1618 (2019)


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