連日のように35℃を超える日が続く中、精神的に大きな負担を感じている方も多いのではないでしょうか。私自身、暑さと湿気にとても弱いので、日本の夏は本当に体と気持ちにこたえます。
気候変動が私たちの生活や健康に与える影響について、世界的に大きな注目を集めています。例えば、既存の研究では、湿度、温度、気圧などの気候要因が、慢性疲労症候群、うつ症状、不安感を引き起こしやすいことが示されています。さらに、極端な高温と高湿度が情動や行動障害に影響し、統合失調症、躁うつ、神経疾患などの患者数を増加させることも報告されています。不安障害は世界中で最も一般的な神経精神障害の一つであり、その発症にはさまざまな要因が関与しています。
こうした中、今回ご紹介する研究では高温多湿の環境が、どのように腸内環境や脳機能に影響を与えるかについて検証されています。
高温多湿環境がマウスの精神や行動に与える影響
研究では、以下の条件でマウスの飼育環境を設定し、それぞれ45日間飼育しています。
・通常環境:温度22〜24℃、湿度45〜55%
・高温多湿環境:温度31〜33℃、湿度91〜95%
その結果、高温多湿環境で飼育されたマウスは、行動テスト(オープンフィールドテスト、高架式迷路テスト)において中央部を避け、閉じた部分に留まる傾向が強く、不安感が高まっていることが示されました。

高温多湿環境が腸内細菌と胆汁酸代謝を変化させる
- 腸内細菌叢の変化
高温多湿環境で飼育されたマウスの腸内細菌叢も解析されています。その結果、乳酸菌の一種であるLactobacillus murinusや、腸粘膜の再生に関連するAkkermansia muciniphilaなどの存在量が著しく減少していました。

- 腸管バリア機能の破綻と胆汁酸代謝の変化
高温多湿環境のマウスでは、腸管バリア機能が破綻し、腸の細胞が炎症することで透過性が増加していました。また、腸内細菌叢が変化したことで胆汁酸代謝も悪影響を受けていました。胆汁酸は一次胆汁酸から腸内細菌によって二次胆汁酸に代謝されます。二次胆汁酸は適量であれば感染防御や免疫調節に欠かせませんが、過剰に産生されると肝臓に炎症を誘発し、肝がんなどの要因になります。
今回の論文では、二次胆汁酸のリトコール酸が過剰に産生され、破綻した腸管バリアを通過して血中濃度が上昇していることが示されています。このリトコール酸が肝臓で炎症性の成分を増加させ、脳のバリア機能を損傷させることで脳内の神経炎症が引き起こされたと推察されています。

- プロバイオティクス投与による回復
高温多湿環境で飼育された後のマウスに、Lactobacillus murinusをプロバイオティクスとして投与する研究も実施されています。その結果、L. murinusが腸内細菌叢の多様性を回復させ、炎症性のシグナルも減少させました。また、不安様行動が改善されることも示されています。
この研究では、人間でも高温多湿時期に腸内細菌を採取し、マウスと同様にLactobacillus murinusとリトコール酸が減少していることを実証しています。ただし、マウス腸内では乳酸菌は主要な菌ですが、人ではほぼ検出されないことが多いため、同じ菌がどこまで関連しているかは未知数です。

しかしながら、気候変動による高温多湿環境が続く中で、腸内環境を整えることで精神健康に良い影響を与える可能性が示された内容になっています。暑くなるとどうしても食欲が落ち、食べる量が減るとともに簡便な食事になりがちです。そうなると食の多様性が減ってしまい、腸の善玉菌が喜ぶ食物繊維や穀類の摂取も少なくなってしまいます。
高温多湿だからこそ、体力を維持して腸内環境を整えることを意識し、食からメンタルケアをしていきましょう。さらに、プロバイオティクスや乳酸菌発酵食品を摂取すると、より効果的に腸ケアができると思います。
(参考文献)
Humid heat environment causes anxiety like disorder via impairing gut microbiota and bile acid metabolism in mice
Nature Communications 15:5697 (2024)


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