腸内細菌叢は、私たちの腸内に住み健康に深く関係している微生物の集合体です。
そして、その組成やバランスは日々の食事によって大きく影響されます。
一旦子供の頃に形成された個人の腸内細菌叢は、大人になったのちは大きく変化しないと言われています。ただし、大きな分類(門レベル)では変化が少ない個人の腸内細菌叢も、細かい分類(属レベルや種レベル)では日々その構成が変化しています。
2019年にCell Host & Microbe 誌に発表された研究では、腸内細菌叢の変動に対する食事の影響を理解する上で、単一日の食事を調査するよりも、連続する二日間の食事の方が重要であることが示されました。今回のブログでは、その内容についてご紹介します。
研究の背景と内容
これまで過去に数多く行われている研究で、食事が腸内細菌叢に与える影響は広く認識されてきました。でも、具体的な食事履歴と腸内細菌叢の関連性については不明な点が多く残されていました。
特に、従来の方法は食物頻度質問票(FFQs)や簡易的な栄養調査に依存していて、これらの方法では食事と腸内細菌叢の微妙な相互作用を十分に捉えることができませんでした。つまり、食事と腸内細菌叢の調査が単一の日のデータに偏っていたため、本来の食事の影響がきちんと測定できていませんでした。
今回の研究では、34人の健康な被験者から連続して17日間にわたり、毎日の食事記録と便サンプルを収集しました。収集されたデータを基に、腸内細菌叢の組成と機能を詳細に分析し、日々の食事の変化が腸内細菌叢に与える影響を調査しました。
連続する二日間の食事が腸内細菌叢の変化と関連
この研究の主な発見は、単一日の食事記録よりも、連続する二日間の食事記録が腸内細菌叢の変動と強く関連していることです。具体的には、以下の点が明らかになりました。
個別性の高い相互作用:
食事と腸内細菌叢の相互作用は個人ごとに大きく異なっていて、単一日の食事記録では理解が不十分であることが示されました。
つまり、ある食材を連続して食べるとAさんには効果的だが、Bさんには効果がないというように、食材と腸内細菌叢の相性は個人ごとにかなり異なるということです。研究の中でも、果物、野菜、穀物など食品グループごとに腸内細菌に影響があるかどうかは個人レベルで異なることが示されています。そして、何の食材が向いているかは、単一日の食事調査では分からないということになります。
連続する複数日の重要性:
減衰加重平均を用いた複数日の食事記録(直近の食事の影響度を大きくスコア化し、日にちを遡るにつれて影響度を小さくスコア化する方法)を使用することで、腸内細菌叢の変動をより正確に予測できることがわかりました。
つまり、ある食材が自分に合うかどうかを判断するには、最低二日以上は続けて腸内細菌の変化を見ることが大切だということになります。
そしてその二日間は「直近の連続二日間」であることが重要です。
腸内細菌叢の安定性:多様な食事を継続的に摂取することが腸内細菌叢の安定性に寄与することが示唆されました。
食事記録をみるときにも、単一日の食事記録ではなく、連続した複数日の食事履歴を収集することが重要です。
食事スタイルと栄養素の内容に関する重要な点
このように、どの食材が自分の腸内細菌に影響を与えるかは、個人間で大きく異なることがわかりました。そしてその相性を見るためには、少なくとも二日間以上続けてみて、その食事記録をとって確認することが大切です。
一方で、特定の栄養素の中には共通して色々な人に影響するものもあります。
この研究でもやはり食物繊維が腸内細菌叢の安定性に関係していることが示されていて、1種類ではなく異なる複数種類の食物繊維(穀物、果物、野菜、豆類)を摂取することが、腸内細菌叢の多様性と安定性に役立つことが確認されています。
また、果物や野菜、お茶に含まれるポリフェノールも、腸内細菌にとって有効な働きをします。ヨーグルトやキムチ、味噌などの発酵食品も、腸内細菌に対してプロバイオティクスや死菌体を届けることで腸内の有用菌を増加させることができます。
今回の研究から、個人ごとの腸内細菌叢に対する食品成分の影響が、非常に個別的であることがわかりました。でも、食材との相性を確認するために、毎日腸内細菌検査をすることはやはり難しいです。普段できることは、トイレで便の様子をチェックすることが一番分かりやすいです。あとは、皮膚の状態とも連動するため、肌も確認事項です。
自分の腸内細菌にどの食材が合っているか、ぜひ色々な腸活食材を数日間試してみて相性をチェックしてみてください。
(参考文献)
Johnson, A. J., Vangay, P., Al-Ghalith, G. A., et al. (2019). Daily Sampling Reveals Personalized Diet-Microbiome Associations in Humans. Cell Host & Microbe, 25(6), 789-802.
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