私たちの体は様々なホルモンによって機能が調節されています。
中でも「性ホルモン」は男性と女性のそれぞれの体調にとって、とても大きな役割をもっています。特に女性の場合はエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンのバランスによって生理周期が調整されています。この女性ホルモンのバランスの乱れによって、体調不良で悩んでいる方も大勢いらっしゃると思います。
今回は、これらの女性ホルモン、さらに男性ホルモンと言われるアンドロゲンが、腸内環境を介して皮膚の状態に影響していることをご紹介します。
女性ホルモンは皮膚の健康維持に欠かせません
エストロゲンとプロゲステロンは、皮膚の健康に大切な役割をしています。
エストロゲン:
皮膚の厚さや水分保持能力を高める効果があります。皮膚のコラーゲン生成を促進し、皮膚の弾力性を保ちます。また、皮膚の血流をよくする役割があります。
プロゲステロン:
エストロゲンの作用を助け、皮膚の修復と再生を助ける働きがあります。炎症を抑える働きがあり、皮膚の赤みや腫れを軽減します。
女性ホルモンのバランスが整っているときは、この2つのホルモンが肌質を適切に保ってくれています。でも、バランスが乱れてしまうと普段は少量作られている男性ホルモンの「アンドロゲン」が相対的に増えてしまいます。アンドロゲンは女性にも存在し、通常は作られたアンドロゲンはエストロゲンに変換されています。性的特徴の発達を促進するために働いていますが、皮膚においては皮脂の生成を促進する作用があります。
アンドロゲンが増えると皮脂の過剰生産が起こり、アクネ(ニキビ)やその他の皮膚問題が発生しやすくなります。特に青春期やストレスを感じている時、生理周期でホルモン変動が激しい時期に、エストロゲンが低下し、アンドロゲンが増加することで、毛穴の詰まりや炎症が誘発されてニキビが発症します。
腸内細菌はホルモンの代謝に直接的に関わっています
腸内細菌は、ホルモンの代謝に直接的な役割を果たします。特に、エストロゲンやその他のホルモンの再循環に関与する酵素を生産します。腸内細菌の乱れ(ディスバイオーシス)が起こると、これらの酵素の活動が阻害されてしまい、ホルモンの異常な分泌や調節不全を引き起こす可能性があります。例えば、過剰なアンドロゲンの生成は、ニキビやその他の皮膚炎症を引き起こす可能性があります。
ホルモンの調節が正しく行われない場合、皮膚の油分の過剰生産や炎症が引き起こされ、ニキビや皮膚の赤み、かゆみといった問題が生じることがあります。また、腸の炎症は体全体の炎症反応を高め、それが皮膚にも影響を与えるため、敏感肌やアトピー性皮膚炎の悪化を引き起こすことがあります。
この腸と皮膚の間の相互作用は「腸-皮膚軸」として知られ、腸の健康が直接的に皮膚の状態に影響を及ぼすことを示しています。健康な腸内環境を維持することは、皮膚の健康を保つためにも非常に重要です。プロバイオティクスや適切な食事が腸の健康を改善し、それによって皮膚の問題が軽減される可能性があります。
エストロゲンの低下によって肌荒れが生じている場合、エストロゲンに近い形をしている成分を植物性の食品から摂取することができます。大豆に含まれている「大豆イソフラボン」は、腸内細菌によって「エクオール」という成分に変換されます。
フィトエストロゲンを含む食材を上手に活用しましょう
このエクオールは女性ホルモンのエストロゲンに近い形をしているため、「フィトエストロゲン」とも呼ばれています。ただし、エクオールを作る腸内細菌は日本人女性の約50%は持っていないとも言われていますし、エクオールの作用自体もエストロゲンに比べてとても弱いこともわかっています。そのため、過剰に頼るのはおすすめしません。
他にも、リグナン前駆体を含む食材も有効です。リグナン前駆体も腸内細菌に変換されてリグナンになり、女性ホルモンに近い働きをします。食材としては、アスパラガス、カリフラワー、トマト、アプリコット、キウイ、イチゴ、亜麻仁、オーツ、大麦などに含まれていることが報告されています。
ホルモンバランスの乱れは、すぐに改善するものではなく色々な状況が重なり合って起こっているため、解決するのが難しい問題ではあります。でも、腸内環境を整えることで症状の緩和につなげるように、食材選びから整えていくことが大切です。エストロゲン量は年齢や閉経前後でも変化しますし、増えすぎても疾患リスクにつながります。その話題はまた別の機会にお届けします。
(参考文献)
Gut Microbiome Production and Modulation of Hormones That Influence Host Skin Health
Preprints 2020030293 (2020)
腸内細菌とフィトエストロゲン
腸内細菌学会誌 26, 171-181 (2012)
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