腸内細菌叢と健康の関係において、食物繊維の役割は特に重要です。今回は、米ぬか由来の水溶性および不溶性繊維が腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを調査した最新の研究について紹介します。
米ぬかは、米の加工過程で生じる副産物であり、日本では伝統的に様々な用途で利用されています。例えば、ぬか漬けの材料として、または糠床として使用されるほか、炊飯時に混ぜて栄養価を高めたり、パンやクッキーに加えて食物繊維を増やすことも一般的です。米ぬかには豊富な栄養素が含まれており、腸内環境の改善に役立つ可能性があります。
玄米と白米の違いと栄養素の精製過程
玄米は精米過程で米粒の外皮や胚芽が取り除かれ、米ぬかと白米して分離されます。この精米過程で失われる主な栄養素には以下のものがあります:
食物繊維:白米にはほとんど含まれない食物繊維が、米ぬかには豊富に含まれています。食物繊維は消化を助け、腸内環境を整える働きがあります。
ビタミンB群:米ぬかにはビタミンB1、B3(ナイアシン)、B6などのビタミンB群が多く含まれています。これらはエネルギー代謝や神経機能の維持に重要です。
ミネラル:米ぬかには鉄、マグネシウム、リン、亜鉛などのミネラルが豊富です。これらのミネラルは骨の健康や免疫機能の強化に寄与します。
抗酸化物質:米ぬかにはフェノール化合物などの抗酸化物質が含まれており、細胞の酸化ストレスを軽減し、健康をサポートします。
精米によってこれらの栄養素が失われるため、白米よりも米ぬかを取り入れることで、より多くの健康効果を期待することができます。
特に、食物繊維の定期的な摂取は、心血管疾患や糖尿病、大腸がんのリスクを低減させることが知られています。植物性食品や穀物に含まれる食物繊維は、消化管内で大きな変化を受けず、大腸に到達すると腸内細菌によって発酵されます。この発酵プロセスにより、健康に有益な短鎖脂肪酸(SCFA)が生成されます。
不溶性食物繊維は単純に便の量を増やす役割だけではない
一般的には、不溶性食物繊維は腸内細菌によって発酵されにくいと考えられてきました。しかし、最近の研究や今回の研究では、不溶性食物繊維も発酵されることが示されています。過去の研究では、大豆由来の不溶性食物繊維が腸内細菌叢の多様性やSCFAの生成を増加させることが明らかにされています。本研究でも、米ぬか由来の不溶性繊維が腸内細菌によって発酵され、SCFAの生成が増加することが確認されました。
この研究では、ヒト腸内微生物生態シミュレーター(SHIME®)を用いて、3名の人(ドナー)から便を採取して腸内細菌叢を培養し、米ぬか由来の水溶性および不溶性繊維がそれぞれどのような影響を与えるかを調査しました。16S rRNAを用いた次世代シーケンスとガスクロマトグラフィー質量分析計(短鎖脂肪酸の分析)を使用して、腸内微生物群集の変化を解析しました。
米ぬか由来の不溶性食物繊維によって酪酸産生菌が増加
短鎖脂肪酸の生成:
不溶性および水溶性繊維の補給は、どちらも短鎖脂肪酸の生成を増加させました。特に、ドナー1では酢酸の生成が増加し、ドナー2および3では酪酸の生成が増加しました。このように、人によって作られる短鎖脂肪酸の種類が異なることがわかりました。
腸内細菌の変化:
水溶性および不溶性米ぬか繊維の両方が、Bifidobacterium(ビフィズス菌)およびLachnospiraceae菌(ラクノスピラ科)の豊富さを増加させました。ビフィズス菌は酢酸を産生し、Lachnospiraceaeに含まれるBlautiaやRoseburiaは酪酸産生菌として知られています。つまり、それぞれの人の腸内細菌によって増える種類が異なっていました。
Faecalibacteriumの増加:
興味深いことに、不溶性食物繊維の摂取によってFaecalibacterium属の細菌が有意に増加しました。Faecalibacteriumは、短鎖脂肪酸、特に酪酸を生成する能力があり、腸内の炎症を抑え、腸の健康を促進する重要な役割を果たしています。過去の研究でも、Faecalibacteriumの増加が腸の健康改善に寄与することが示されています。
この研究は、米ぬか由来の水溶性および不溶性繊維が腸内細菌叢に与える影響が個々のドナーによって異なることを示しています。特に、Lachnospiraceae科には多くの短鎖脂肪酸生成菌が含まれており、その増加が健康に有益な効果をもたらす可能性があります。個人の腸内細菌叢は多様であり、これが食物繊維に対する反応の違いを生む要因となっています。
また、一般的には発酵されにくいとされる不溶性食物繊維も発酵されることが確認され、腸内細菌叢に有益な影響を与えることが示されました。特にFaecalibacteriumの増加は、腸の健康に対する重要な指標となり得ます。
この研究からもわかるように、食物繊維の利用性は水溶性・不溶性によっても異なり、それは人それぞれの腸内細菌の種類によっても変わってくることがわかります。普段の生活の中で、自分がどのタイプの繊維に反応するかを知ることはとても難しいです。そのため、単純に一種類や数種類のみの食物繊維を摂り続けるのではなく、多種類の食物繊維を組み合わせることで食材を彩り豊かにすることが大切です。その中でも、今回ご紹介した米ぬかはどちらのタイプの食物繊維も含んでおり、バランスのよい発酵性食材ですので、ぜひ普段の生活に取り入れてみてください。
(参考文献)
Supplementation with soluble or insoluble rice-bran fibers increases short-chain fatty acid producing bacteria in the gut microbiota in vitro
Front. Nutr. 11:1304045. (2024)
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