新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的に猛威をふるい、今もなお感染は続いています。5類に移行された後はコロナ以前の日常が戻りつつありますが、感染経験者の中には後遺症による体調不良に悩まされている方も多いのではないでしょうか。
一般的に、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2だけでなく、ウイルス感染後に後遺症に悩まされることがあります。ウイルス感染後後遺症は、一部の人々において長期間続き、疲労、記憶障害、その他の神経認知障害を含む様々な症状を引き起こします。COVID-19の後遺症(このブログでは新型コロナ後遺症と呼びます)も、感染後に症状が続くことがあります。その原因としては、ウイルスの持続的な体内での存在、慢性炎症、自律神経機能障害などが考えられています。
今回ご紹介する論文では、新型コロナ後遺症の人ではセロトニン量が減少していることに注目しています。
新型コロナ後遺症ではセロトニン量が減少している
セロトニンは、脳と体の多くの機能に関与する重要な神経伝達物質です。特に、気分、睡眠、消化、血液の凝固などに影響しています。セロトニンの約90%は腸内で産生されているため、脳と腸の関係をつなぐ「脳腸相関」のキープレイヤーとしても注目されています。
<セロトニンの主な役割>
・神経伝達物質:セロトニンは、神経のニューロン間の信号伝達を助ける化学物質です
・気分と感情:セロトニンは、幸福感や安定した気分を維持するのに重要な役割を果たし、不足するとうつ病や不安症を引き起こすとされています
・消化:セロトニンは腸内でぜん動運動を調整して、腸の動きや消化過程を助けます
・血液の凝固:セロトニンは血小板に取り込まれ、血液が傷口で凝固するのを助けます
このセロトニン量について、急性新型コロナ患者、完全回復者、新型コロナ後遺症患者の間で調べたところ、特に新型コロナ後遺症患者において顕著に減少していることが示されています。また、複数のコホート研究でも同様にセロトニンレベルの低下が確認されています。

さらに、ウイルス感染によるセロトニン量の減少は、SARS-CoV-2に特有なものではなく、他のウイルス感染でも観察されています。
ウイルス感染による炎症は腸内でのトリプトファン吸収を妨げる
セロトニンは、アミノ酸の一種であるトリプトファンを原料にして腸の細胞(腸クロム親和性細胞)や腸内細菌によって産生されます。今回の研究で、ウイルス感染によって腸内に炎症が起こることで、腸の細胞へのトリプトファン吸収が減少して結果としてセロトニン産生が減少することが示されました。

また、炎症によって血液中の血小板数が減少し、結晶中のセロトニンレベルも低下しています。血小板の減少はセロトニンを血液中に貯蔵する能力を低下させてしまい、結果的に「トリプトファンの取り込みの減少」「血漿中のセロトニン減少」「減少するため、さらに産生を高めようとして代謝酵素の増加」をもたらし、体内全体でのセロトニン量の減少につながってしまいます。
セロトニン減少が迷走神経シグナルと記憶機能を低下させる
腸には独自の神経細胞が張り巡らされています。この腸管神経系と脳は、迷走神経でつながっていて、腸から脳への信号と、脳から腸への指令を双方向に伝達しています。この相互作用によって、腸の運動の調節、食物の移動や消化液の分泌が促進されています。
また、セロトニンは迷走神経を介して脳に信号を送り、気分や感情の調節に影響を与えています。セロトニンが不足すると、うつ病や不安障害などの神経疾患と関連します。
今回の研究では、新型コロナ後遺症やウイルス感染によって腸内のセロトニン量が減少することで迷走神経の活動が低下し、認知機能障害が引き起こされることが示されています。特に、脳の海馬の反応と記憶を障害することが特徴です。実際、マウスのモデルではセロトニンを外から補充したり、選択的セロトニン再取り込み阻害剤を投与することで、記憶機能が回復することも確認されています。

新型コロナウイルス感染症の後遺症で悩んでいる方、さらには他のウイルス感染でも体調が優れない、疲労が継続してしまうという方は、腸内のセロトニンが減少している可能性があります。トリプトファンを含む食事をきちんと摂ることや、アミノ酸を含む質の良いタンパク質摂取を心がけること、さらにはセロトニン産生を促す短鎖脂肪酸を作るために食物繊維を摂ることなど、普段の食事で摂っている栄養について検討してみてください。
(参考文献)
Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection
Cell 186, 4851–4867 (2023)


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