便秘は多くの人が日常的に抱える問題であり、食生活の乱れもその原因の一つであることが広く知られています。便秘解消には水分やマグネシウム、食物繊維の摂取を勧められることが多いのですが、栄養素の一つである「銅」の役割については十分な研究はありません。
銅は、私たちの体内で必要不可欠な微量元素の一つです。エネルギー代謝や酸化還元反応、ミトコンドリア機能、神経伝達において大切な役割を担っています。今回ご紹介する研究は、米国の成人を対象とした大規模な調査データに基づく、食事由来の銅の摂取と便秘の関連性を明らかにしたものです。
銅の摂取量が増加することで便秘リスクが低下する
今回の研究は、2005年から2010年にかけて実施された米国立健康栄養調査のデータを使用して行われました。20〜85歳の10,367人のデータを元に、米国の成人における食事性銅摂取と便秘の発生率との関連性を調査しています。調査対象者の食事情報は、24時間食事摂取記録を用いて収集され、便秘の症状は、便秘に関する自己申告や排便の頻度、便の硬さなどを基に評価されています。
研究の結果、銅の摂取量が増加することで、便秘のリスクが低下することが明らかになりました。銅の摂取量を4区分(最も上位区分は1.53 mg〜31.1 mg/日)したところ、摂取量が少ない区分から1区分増加するごとに、便秘の発生率が約20%減少するという結果になりました。つまり、銅の摂取量が多いほど便秘のリスクが低くなることを示唆しており、食事由来の銅が便秘の予防や改善において大切な役割を果たしていることが分かります。
銅の過剰摂取には要注意
銅は体内で健康維持に重要な役割を果たしますが、過剰に摂取すると逆に健康に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、過剰な銅摂取は腸内の炎症を引き起こし、腸壁のバリア機能を損傷するリスクがあるとされています。また、神経系にも影響を与え、長期間にわたり銅の過剰摂取を続けていると、脳にダメージを与える可能性もあります。そのため、銅の摂取量は推奨される上限(成人男性・女性 10 mg/日)を超えないように注意が必要です。
日本人の銅の推奨摂取量は、以下のようなガイドラインが示されています。
日本の銅の推奨摂取量(2020年版、日本人の食事摂取基準より)
成人男性・女性:700〜900マイクログラム(μg)/日
*mgに直すと、0.7 〜0.9 mg/日
また、先ほどお伝えしたように、上限摂取量は10 mg/日ですので、この範囲内で便秘解消に適した量を検討することが大切になります。つまり、便秘解消には適するけれど過剰症にはならない量が重要です。
最適な銅摂取量の範囲で便秘を解消する食材
今回ご紹介した研究で、最も便秘リスクが低かったのは「1.53 mg〜31.1 mg/日」の区分でした。この区分で31.1 mg/日もの銅を摂取すると、過剰症のリスク区分になります。私が一般の方々に栄養解析を行って銅の摂取量を調査したところ、およそ1.2 mg/日程度の方が多いようです。もし1日に1.2 mgの銅を摂取していても便秘がちな人は、銅を含む食材を少し増やしてみることで、改善につながる可能性があります。
銅を含むおすすめ食材は次のようなものがあります。
牛レバー(100gあたり約3.5 mgの銅)
- 週に1回100 g程度の摂取が適切です。
牡蠣(100gあたり約2.5 mgの銅)
- 週に1回100 g程度の摂取で十分です。
ナッツ類(28 gあたり約0.4~0.6 mgの銅)
- カシューナッツやアーモンドは、毎日28 g程度が適量です。
納豆(1パック40 gあたり約0.3 mgの銅)
- 毎日1パック程度の納豆を食べることで、銅の摂取が可能です。
ダークチョコレート(28 gあたり約0.5 mgの銅)
- 小さなひとかけら(約28 g)をデザートに摂取するのが良いでしょう。
日常的に精製された食品(白米、白パン、加工食品など)や銅をほとんど含まない食品ばかりを食べている場合、銅の摂取不足のリスクが高まる可能性があります。栄養バランスの取れた食事(特に全粒穀物、豆類、ナッツ、魚介類など)を心がけることで、銅を含む微量栄養素も自然と摂取できるようになります。
どのような優れた食材も栄養素も、不足のリスクと過剰症のリスクがあります。ですので、体に良いからといって一つのものだけを食べ過ぎることは控えましょう。もしご自身の日常的な栄養摂取状態を確かめたいという方は、栄養解析のサービスをご活用ください。
(参考文献)
Association between dietary copper intake and constipation in US adults
Scientific Reports (2024) 14:19237
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