私たちの腸に住む腸内細菌は、消化や代謝だけでなく、免疫系の調整や精神状態にも影響を与えることがわかってきています。近年の研究によって、腸内細菌叢が心臓の健康、特に不整脈にまで影響を与えることが明らかになってきました。
心臓と腸内細菌叢の関係
不整脈は、心臓の電気的活動が乱れることで生じる症状です。心拍が異常に速くなったり(頻脈)、遅くなったり(徐脈)、不規則になったりする状態(期外収縮)を指します。こうした不整脈は心臓が正常に血液を送り出す能力を低下させ、心不全や脳梗塞といった大きな病気を引き起こすリスクがあり、命の関わることもあります。

不整脈は年齢とともに増加する傾向があり、特に高齢者に多く見られます。不整脈のうち「心房細動」という種類は、日本人の80歳代では男性4%、女性2%が抱えていると言われており、高齢化に伴いさらに増加すると考えられています。
この原因の一つとして、腸内細菌叢の乱れが注目されています。これまでにも、動物性の肉食等に含まれるコリンやL-カルニチンから、腸内細菌によって生成される「トリメチルアミンオキシド(TMAO)」という物質が、血中に入ることで心血管系に悪影響を及ぼすことが報告されています。特に、心房の電気的興奮性を高めて不整脈を引き起こすことが知られています。

加齢腸内細菌は酸化ストレスを引き起こして不整脈を発生させる
2024年9月に発表された研究では、老齢マウスの腸内細菌叢を若齢マウスに移植する実験が行われています。その結果、老齢フローラを移植された若齢マウスで、不整脈の発生率が増加することが確認されました。特に、老齢フローラを移植された若齢マウスの腸内で酸化ストレスが引き起こされ、心臓で電気信号を伝えるタンパク質の機能が抑制されました。
酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素種(ROS)と、それを除去する抗酸化システムのバランスが崩れて弱くなることで、活性酸素が体内に過剰に存在する状態のことです。活性酸素が増えると、細胞や組織が傷つき、心筋細胞にも悪影響を与えます。

また、実験内では老齢マウスの腸内細菌叢によって腸のバリア機能が弱まり、腸内の悪玉菌や有害な代謝産物が血中に流入してしまうことも示されています。これにより全身に炎症や酸化ストレスが行き渡り、さらに心臓に悪影響を与えてしまいます。
抗生物質による腸内細菌叢の除去で不整脈発生率が低下
老齢マウスの腸内細菌叢を抗生物質によって除去する実験も行われています。この結果、不整脈の発生率が顕著に低下し、心臓における酸化ストレスも減少しました。つまり、腸内細菌叢の加齢による悪化が、不整脈に大きく関連していることが示されています。
私たちの日常生活では、むやみに抗生物質を使うことは腸の善玉菌を減らしてしまい、他の病気を引き起こすリスクがあります。そのため、不整脈リスクの予防のために抗生物質を使うことはできません。過去の研究で、不整脈患者ではFaecalibacterium(フィーカリバクテリウム)やOscillospira(オシロスピラ)といった菌が腸内で減少していることがわかっています。これらの菌は「酪酸」を作る菌として有名です。健康長寿の地域ではFaecalibacteriumが多く検出されることも知られていますので、酪酸産生菌を増やすための食生活が有効でしょう。

さらに、活性酸素を除去するために抗酸化物質を含む食品もおすすめです。ビタミンCやビタミンE、ポリフェノール、β-カロテン、セレンなどに着目して食材選びをしてみてください。また、多くの果物や野菜の皮には、果肉部分に比べてより高濃度の抗酸化物質が含まれています。皮には多くの食物繊維も含まれますので、皮ごと使用する調理方法をお勧めします。
一方で、不整脈患者ではStreptococcus(ストレプトコッカス)菌が増加しています。Streptococcus菌は腸内にも住んでいますが、口腔内に多く住んでいる菌種です。口腔内の菌が腸内に一時的に定着すると、腸の細胞を破壊したり、潰瘍を作ったりします。高齢になった際、より一層の口腔ケアが重要になります。
今回の研究で、腸内細菌叢の乱れと不整脈発症のメカニズムに関する具体的な内容は、まだ完全には解明されていません。それでも、腸内細菌叢が心血管系に与える影響は高齢社会において大きく注目されています。年齢を重ねるにつれてより一層腸内細菌をケアして調節することが、不整脈や脳機能の健康にとってとても重要になってきます。
(参考文献)
Aged gut microbiota promotes arrhythmia susceptibility via oxidative stress
iScience, doi: https://doi.org/10.1016/ j.isci.2024.110888.(2024)


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